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千葉県民司法書士事務所

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2013年8月 6日 (火)

弁護士法23条の2照会について

 

【弁護士法第23条の2】

  1. 弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があった場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
  2. 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。

日弁連の公式見解は,
「弁護士照会は,法律で規定されている制度のため,原則として回答及び報告義務があり,例外として,照会の必要性・相当性が欠けている場合は,回答・報告をしなくてもよい」としており,これは,「法務省所管事業分野における~ガイドライン」から上記結論を導き出していると考えられます。

一方で,少し古いものながら次の政府答弁をご紹介します(これ以降,弁護士法照会制度の改正もないことから,次の政府答弁は現在も変更されていないと考えております)。
当時の森喜朗 首相の政府答弁です。
(地方公務員法(34条)・地方税法(22条)に関連する弁護士法23条の2の質疑に対する答弁)

冒頭で弁護士照会の一般論を述べております。
「弁護士法第23条の2の照会制度は,弁護士が受任事件について訴訟資料等の収集,事実の調査等,職務活動の円滑な遂行に資するべく設けられた規定で,受任している事件とは,委任を受けて,示談交渉,契約締結,法律相談,鑑定等を行う事件も含み,受任している訴訟事件に限られるものではない。」
(中略)
「弁護士法23条の2の規定に基づく弁護士会からの照会の対象事項が,地方公務員法34条又は地方税法22条に規定する秘密に該当する場合には,秘密に該当する事項を開示することが正当視されるような特段の事由が認められない限り,秘密を漏らした者は地方公務員法60条又は地方税法22条に規定する刑罰の対象となることから,照会に応じて当該事項を報告することは許されないものと解している。
なお,個別の事例において,秘密に該当する事項を開示することが正当視されるような特段の事由が認められるか否かを地方公共団体が判断するためには,弁護士会の照会の中で,紹介に応じた報告を受けることによって得られる公共的な利益の内容がそれぞれの事例に即して具体的に明らかにされていることが必要であると考える。」
(中略)
「総務省としては,弁護士法23条の2に基づく照会があった場合に,各地方公共団体において上記について述べた趣旨を十分理解した上での対応がなされるよう,今後とも助言等を行ってまいりたい。」

以上の着目点は,「特段の事由」の有無によって判断することとなります。
なお,本答弁は,個人情報保護に関する法律が施行される前の答弁ですが,それに伴って変更されたことは確認されませんでした。


以下は,ソフトバンクモバイル社に対する裁判所の調査嘱託に関する事件で,ソフトバンクの主張が認められた事例。
http://www.aoi-law.com/pdf/240522.pdf
なお,控訴審でも,維持。


平成22年9月29日 東京高裁判決(VS郵便事業者)ですが,
転居先(郵便物転送先)を報告しなければならないとする内容です。
判決の最後に,
「補論
 本件の争点に関する法的判断は以上であるが、本件の性質及び本件訴訟の経過にかんがみ、若干付言する。
 本件は、控訴人が確定判決という債務名義を得ながら、執行を免れるために住居所を変えたものと推認される債務者乙山につき、その新住居所を知りたいと考えた控訴人の代理人弁護士らが、二三条照会に一縷の望みを託したにもかかわらず、それが叶えられなかったことの法的意味合いを問うものであった。被控訴人は、本件照会に対する報告を拒絶したが、それは通信の秘密を守る役割を有する機関としての責任感に基づくものであった。しかし、本件で判断したとおり、本件照会事項1ないし3については二三条報告義務があり、これを拒絶することには正当な理由がないのである。
 そこで、当裁判所としては、被控訴人に対し、この判決を契機として、本件照会に改めて応じて報告することを要請したい。また、さらに、新住居所という転居届に記載された情報に関しては、本判決の意のあるところを汲み、二三条照会に応ずる態勢を組むことを切に要請したいと考える。」

上記は,特殊な事例からか,弁護士法の照会の優位性を貫いたと思われますが,一般論だとすると,これまでの枠組みよりもより弁護士法照会制度に重きを置くものかと思われます。


以上に掲げた以外の裁判例その他も踏まえると,
開示あるいは報告をしなければならない場合におけるキーワードは,「必要性と合理性」「特段の事情」「開示によって得られる利益と非開示によって守られる利益の比較衡量」であり,これらを総合的に照会事項を判断すれば,責めは負わないと考えられます。

最高裁判決で,犯罪歴の開示に関する判決がありますが,これは秘匿性が極めて高く,開示が違法と判断されたものですが,それ以外の個人情報(銀行への照会に対する顧客の情報等)については,上記キーワードにもあるような判断を要するものとなるのでしょう。

また仮に,開示をしなければならない事案で,開示をしなかった場合に,損害賠償が認められるのか,ということですが,これまでの裁判例を見ると,照会するのは弁護士会であり,各個人の弁護士ではないことから,弁護士個人が(開示義務違反に対する)損害賠償請求をしても,認められない傾向にあると思われます。

この問題については,また折を見て触れたいと思います。

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